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2011年12月17日

みんなのヒバク

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冷戦時代、アメリカはプルトニウムの量産体制に入り、操業が停止するまで
2万5千発分の核弾頭をまかなえるプルトニウムを生産した。
1950年代、そのハンフォード核施設の風下に広がる広大な砂漠が、政府の
プロジェクトで基盤整備され、アメリカ有数の緑の穀倉地帯へと変貌した。

あらゆる作物がここで生産され、もっぱら輸出される。
りんご、ジャガイモ、小麦、コーン、牧草、蕎麦など。
その大部分を買っているのは、ファーストフーズ産業と日本の商社である。
かくして、汚染作物は世界を巡り続けてきたし、今もそうだ。

この地に入植したアイルランド移民三代目の長男トム・ベイリー。
骨癌で亡くなった父親の骨は沈着したストロンチウム90で黒い斑点だらけだった。

1987年、ハンフォードに関する機密書類が公開され、放射能汚染が明らかになった。
トムのなかにあった様々な疑問に光があたった。

自分自身の病気、入院していた頃に同じ病棟で死んでいった子供たち、
大量に生まれた家畜の奇形。
白い宇宙服のような防護服を着て畑のなかで死んだうさぎや土を採取していた人々、
これらの意味がはっきりとわかった。
「農民をモルモットにした人体実験」だったのだ。

事実が明るみに出た時、トムは政府に放射能汚染による健康被害の疑問を投げかけた。
とたんに地域住民は彼を村八分にし、銀行は融資を止めた。
「放射能が怖いって?おれは平気だ、なんでもないのさ。あんなものを怖がるやつは
どうかしている」。施設で働く人々はそう言った。

弟のテリーは、政府の「安全である」という言葉を信じて、
広大な農地でジャガイモなどを栽培し成功をおさめている。
二人は兄弟でありながら全く正反対の生き方をしている。

テリーは自分の作るジャガイモがマクドナルドに買われることを誇りにしている。
もし、テリーがそのジャガイモを放射能によって汚染されていると認めたら、
広大な農地は無価値となるのだ。

テリー自身も、被害者でありヒバク者である。
でもその被害を否定して自分の人間としての誇りを守ろうとしている。
そしてそのような選択は彼を加害者として生きざるをえないような立場に追い込む
ことになってしまう。

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「内部被曝の脅威」 肥田舜太郎、鎌仲ひとみ ちくま新書より

肥田さんは、この本の最後にこんなことを言っています。

「汚染された食物を選択の余地なく食べていくしかない時代に
既に私たちは生きていることを認識する必要がある。
それが現実だし、もう放射能のない、きれいな環境は存在しなくなってしまった。
私達の未来は、既に放射能にうっすらとまみれている。」

「明日には死なないが、未来の世代には果たしてどのような問題を
抱え込むことになるのだろうか。
現在、被ばく者となり、苦しむ人々は、過去の汚染の犠牲者であり、
現在の汚染が未来の私たちの苦しみになることが、はっきりと見えてきている。
誰も責任をとることのできな、い内部被曝の時代に私たちは生きている。」


哀しいですよね。

「自然界にも放射線があるのだから大丈夫だ」というキャンペーンが行われ、
放射線量も "直ちに影響のある" 外部被曝の値しか問題にされない。

体内に入った微量の放射性物質がどう振る舞うのか、
現代の科学では100%解明されていないのだという。

しかし、アメリカでは、原爆投下の四ヶ月前に、プルトニウムを人体に注射する実験が
行われていたことも明るみに出ているし、
先ほどのハンフォードでは、
放射性ヨウ素131を載せた気象観測用の気球を飛ばして、
風下の住民に放射性物質をばらまくなど、
各種の人体実験が行われていたこともちゃんと記されている。


低線量放射線による内部被曝の危険性など、
アメリカなんて、もう当然のこととしてわかっているはずですよね。
でも、わかっていたとしても、
ビッグビジネスに支障が出るようなことは、頑として認めないのです。
それだけのことです。

だからね、
自分たちの生命はもう自分たちで守るしかないのです。
知らぬがホトケになる前に、この本は読んでおいたほうがいいよ。

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