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2010年4月12日

身の丈の農業

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スイセンというのは実にたくさんの種類があって、
初冬から晩春頃まで、いろんな花を咲かせてくれます。
それがこのあたりじゃ、ウラ庭や道端にたくさん自生しているというのが素敵ですね。

これは花弁がクシャクシャになるタイプのスイセン。

フードセキュリティ(山下一仁著、日本評論社)」という本を読みました。

世の中には、もちろん自分の知らないことがたくさんあるのだけれど、
その事に具体的に困ったりしないうちは、
あまり関心が持てなかったり、事情や成り立ちや背景を知ったりする機会もない。

それでも、自分の生きる糧である食料事情ぐらい、
みんな自分できちんと理解しておくべきだろうとあらためて思わされた。
グルメとか、おいしいレシピとか、もちろんそれもいいんだけれど。

「食の安全」ったって、
賞味期限や産地の偽装とか、低農薬とか、BSEとか、毒入りギョウザとか、
まぁ、そんなこともあるでしょうよ、とたいして気にもしておりませんでした。

遺伝子組み換え大豆なんかもそうです。
「遺伝子組み換えでない」とか「ある」とか、変な日本語だとは思っていたけれど、
まぁ、どうでもいいじゃん、とたいして気にはしておりませんでした。

その「遺伝子組み換え」というものが、実は強力な除草剤と、
それへの耐性を持った「遺伝子組み換え種子」を抱き合わせにして販売するという、
恐るべき商法から生まれた産物であることを知って、愕然としました。

次代に種を残せないというF1種子でさえびっくりしたのに、
その「遺伝子組み換え種子」を蒔いて、うっかり交雑させたりすると、
開発した会社から特許侵害で訴えられたりするのだそうです。
もう、「なんじゃ、そりゃ」の極地ですよね。

 
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いや、でも今回はそういう話は別にして、
もっと根本的な、日本の農業はどうなるんだってことです。

自分たちで食べるものさえ自分たちで作らなくなって、
日本の食料自給率はどんどん低下しているというのに、
かたや、国は減反政策を強力に推し進めていて、
わずかしか残っていない農地や農家の数をさらに減らすことで、
米価を高値で維持しようとしている。

これって、普通の感覚からすれば明らかにおかしい事ですよね。
何、お役所のやることってだいたいそんなもんだろうって。
みんな普段の生活で特に困ってないから放置されてるようなものだけれど、
考えてみれば、かなり由々しき問題ですよね。

日本の米を保護するためにということで、米の関税率は778%になっている。
60kgで2万円だから、税金だけでも国内米価よりも高い。
おいしくて安いカリフォルニア米があっても、日本じゃ高くてとても買えないわけです。

こういう馬鹿な関税率を維持せんがために、
いわゆるミニマムアクセス米ということで、国が毎年77万トンもの米を
他国から買い上げているのだそうです。
この購入、輸送経費が年間約300億円、保管費用が年間約200億円。
「なんじゃ、そりゃ」ですよね。

さらにそれだけじゃなくて、
生産者米価を高止まりさせるための「減反政策」で、
農家への補助金として、年間2000億円を投じてきたのだそうです。

そしてまた、補助金行政といわれる農政には、
その補助金の受け皿として、強力な政治力を持つ農協の存在があります。
農家に高い肥料、農薬、機械を購入させ、保険をかけさせ、売れれば貯金をさせ、
農家のためにと言いながら、組織の利潤を追求せんがために、
商売の元である高い米価を維持し続けるよう国に圧力をかける農協があるわけです。

こうして、農協、農林族、農林水産省、というがんじがらめのトライアングルから
ひり出された農政に、日本の農業の明日が見えなくなっているのです。

最近では、民主党の「一兆円の農業戸別所得補償制度」。

これって、農産物の赤字を国が補償しますってことです、国民の税金で。
今までは農協を通していたものを、今度は個人支払いにするというだけのことです。
「自給率の向上と農業者の経営安定」 とかのお題目はいいんだけれど、
普通の感覚で考えれば、コスト割れで先の見込みも立てられない赤字経営者に、
手厚い補償を続ける馬鹿がどこにいるかってことですよ。


うーんと、だから、
日本の農業はもっと国際競争力をつけなくっちゃ、ってことを言いたいのじゃなくてね。
欧米のマネをしてね、大規模、単作で生産効率をあげようとか、
そういうことを考えるからいけないんだと思うのです。

そんなことをしようと思うから、大型機械を買わなくちゃいけなくなるし、
高い燃料をバカバカ使わないといけなくなる。
大量の輸入肥料、輸入飼料に頼らなくちゃ何にもできなくなるのです。

遺伝子組み換え作物だってそうですよね。
大型機械を使って、大量の農薬(殺虫剤と枯れ葉剤)と化学肥料を投入し、
効率よく大量生産するために、ということで開発されたものです。


だからね。
日本は日本らしく、「身の丈の農業」をすればいいと思うんですよ。

石油は出ないんだし、しょせん山に囲まれた狭い耕作地がほとんどなんだから、
効率と低コストを追求した大規模農業なんてめざさなくてもいいんです。

棚田の風景が美しいじゃないですか。

非効率で人手はかかるかもしれないけれど、
自分たちの食料ぐらい自分たちで何とかできる程度の農地に、
必要な家畜を飼い、米・麦・豆や季節ごとの野菜・果樹が栽培できる田畑があり、
家族が暮らせる家がある。それが理想じゃないかなぁ。

放置された里山や耕作放棄地なんかは、戦後の農地改革の時みたいに、
いったん国が強制的に取り上げて、就農希望の若者たちに再配分すればいい
んだと思います。
農地は国の資源なのだから、使わないものに私有権を認めている場合じゃない。
そうでもしないと、次のステップにはとうてい行けないんだと思うのです。

そうして「自給農」をベースにしたライフスタイルの農家を増やしていくことが、
ひいては日本の農業の荒廃を食い止め、精神性を豊かにし、
本来の意味で国際競争力を持つ国民になれる近道じゃないかと思うのです。

それじゃ、都市生活者は食えなくなるじゃないかというむきもあると思いますが、
いいんです。
新鮮な野菜がほしければ、リュックを背負って田舎に買出しに来ればいいんです。

今は輸入に頼って、お金のチカラで食料を確保している日本ですが、
やがて、天候不順や人口増大による食料不足が世界規模で起こってくれば、
当然ながら、どこも自分の国の食料確保を優先させますからね。
その時にはいくらお金を出したって、日本には食料が回ってこなくなるでしょう。

そうなれば、干上がった都市生活者は、
やむなくリュックを背負い、みんなこぞって田舎に買出しに来るようになるんです。

でも、そんな時だけ泣きついたって、状況が逼迫してくればみんなに断られますよね。
田舎に何のツテのない都市生活者なんかは、
いくらお金を持ってたって、米や野菜が手に入れられずにあわれ飢え死にしちゃうんです。
それはもう、遠くない日に現実化するでしょう。

その時になって、
あの民主党の「農業戸別所得補償制度」の時は、オレたちが税金で払ってやったんだから、
今度はコメと野菜をオレたちに分けろ、とか、ヤダ、とか言い合いになったりして。

だからね、そうなる前に、
「自給農+α」で、ひとつの農家が都市生活者10人の面倒をみましょう。
ということで、無理のない営農スタイルを奨励して、そういう農家を増やしておくのです。
契約者には毎月、米と野菜を直送する代わりにその生産コストをカバーしてもらう。
そういうゆるい相互扶助の仕組みがあると、食糧危機が来ても安心だよね。

その規模の農家だと、大型機械も使わなくていいし、燃料も浪費しなくていい。
自然農を基本に農業を組み立てていくのであれば、
輸入ものの農薬や化成肥料や石油加工製品の資材なんかも使わずに済む。

自然環境を壊さず、無駄にコストもかけず、身の丈で持続していける農業。
そういうのでいいと思うんだけどなぁ。

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