五十猛駅に佇んで
これから先、そんなことをする機会がまたあるのか、
もうないのかは分からないけれど、
若い頃は一人、行くあてもなく鈍行列車で旅をした。
そんな時、夕暮れあたりに田舎の淋しい無人駅に停車すると、
いつもそんな風に思うのだ。
駅の周りにはひとつの商店もなくて、プラットホームには裸電球。
その笠が風にカタカタと震えている。
その駅も、やがてくる暗闇にすっかりくるまれてしまうだろう。
本当なら、目を閉じてそのまま通り過ぎてしまえばいいのに、
僕は、その駅に降りてしまう。
どうしてもここに降りなくちゃいけなかった。
こんな何もない、山裾の小さな町に。
そう思うと、堪えきれないほどの寂寞が襲ってくる。
その駅に一人降り立ち、
明かりのもれる家並みを、あてどもなくさまよいながら、
今夜、寝るための宿を探す。
やがてどこだかの古びた民家の二階に転がり込むことになり、
そうして、死ぬまでその町で暮らす。
それでもよかったのだ。
あのまま列車に乗って人のたくさんいる町に着いたとしても、
結局、何も違わないのだ。
夕暮れあたりに、田舎の淋しい無人駅に列車が止まると、
いつもそんなふうに思う。
いや、五十猛駅がどうというわけではないのだけれど、
無人駅だし、駅前には見事に何もない(笑)。
9号線から標識が出ていて、いつか行ってみようと思っていた。
僕の住む、隣の駅。