去ぬ、逃げる
冬でも西日は差し込むものだ。
ひとときの晴れ間に、光は磨りガラスを抜けて畳の目を洗う。
その晴れ間を盗み、浜から拾いきた杉の丸太を割る。
木の皮はもうだいぶ潮にやられていて、
欠け落ちた木片から、巣くっていた白蟻が零れ落ちる。
海には海の掟があって、山の神とは相容れぬ。
今日一日こうしてありましたことを、
自分にはただ感謝申し上げることしかできないとしてもだ。
去ぬ、逃げる、とはよく言ったもの。
何もせぬまま過ぎ行く日々を、
そのままに愛せよとは、とても酷なことの気がするよ。
だから、ということではないけれど、
凍えるような明るい夜には、
不知火のような月が、雲間にぽっかりと浮かぶのだ。